名雪とぴろ


祐一「恋はいつだって唐突だ」
祐一が,真琴にマンガを読んでやる。
祐一「下痢もいつだって唐突だ」
真琴「そんなこと書いてない!!」
祐一「へへ〜,バレたか」
はっきり言ってバレバレである。
真琴「ぴろもちゃんと読んでと言ってるでしょ!!」
ぴろ「ニャ〜ン」
祐一は,毎日毎日,同じマンガを読まされていた。昨日と変わったことと言えば,聞く人が増えたぐら い。いや,聞く猫が増えたぐらいといった方が正しいかもしれない。

祐一「そういえば,真琴」
真琴「な〜に,祐一?」
祐一「名雪にはぴろのこと言ってないよな?」
真琴「言ったよ」
祐一「げっ,何で名雪に言ったんだよ。あいつ猫アレルギーなんだぞ」
祐一は,名雪にはぴろのことを言わないように言っていた。だけど,ぴろを飼ってから数日しかたって いないのに真琴は名雪に言っていた。
真琴「だって,ぴろが会いたいと言ったんだもん」
祐一「猫がしゃべるわけがないだろうが!!」
真琴「ちゃんと言ったよね,ぴろ」
ぴろ「ニャ〜ン」

秋子「祐一さん,ご飯ですよ」
祐一「今いきます」
台所で名雪は夕食の用意をしていた。ぴろが名雪の方へ走っていった。
ぴろ「にゃ〜ん」
名雪「ぴろ,お腹空いたよね。今,ミルクあげるからね」
もうすっかり仲良しになっていた。ぴろがミルクを飲んだ。
名雪「わぁ〜,カワイイ」
名雪は目を丸くしてぴろを見た。

俺がまだ小学生だった頃,名雪は捨て猫を拾ってきたことがあった。
だけど,名雪は猫アレルギーだった。
秋子さんは猫を飼うことを反対した。
だけど,名雪は飼いたいと言って秋子さんの言うことを聞かなかった。
猫好きなのに猫アレルギー。
とてもかわいそうなことだ。
でも,今の名雪は昔と比べると治まってきているようだ。
昔と比べると猫アレルギーの症状が少なくなっている。
でも,だからと言って飼うって言うのは・・・。
名雪が喜んでいるんだから,いいか。


名雪「ぴろ、ミルクだよ」
猫アレルギーなのに普通に面倒見ている。
ぴろ「ニャ〜ン」
名雪は目を丸くしながら、ずっとぴろの顔を見ていた。
あんなに、ぴろと近づいているのに全然猫アレルギーの症状がでない。
実に不思議なことだ。
ぴろも名雪にすっかりなじんでいる。

そして、夜中になり祐一は夢の中に入った。
それは、子供のころのときだった。
ぴろは、飼い主に捨てられ何処にも行くところがなかった。
寒い日も、冷たい雨の日も
ただ、食べ物を探して歩くだけの毎日
もう嫌だ。もうこんな生活嫌だ。
その時だった。体に何か温かいものにあたった。
いや、あたったんじゃない。むしろあてられたんだ。何か嫌な予感がする。
女の子「可愛い〜」
急に体が浮いた。翼がないのに浮いた。魔法も使えないのに浮いた。
女の子「こんにちは、ネコさん」
何か分からないもの。でも、一つだけ分かった。目の前にいるのは人間だ。
名雪「あのね、名雪って言うの」
あれ、本当に人間なの!? 確か人間は嫌な生き物だったはずだった。
でも、前にいる人間は優しかった。
きっと人間じゃない。だって、名雪って言ってたんだもん。人間じゃなくて名雪だ。
だけど、この子と一緒に暮らすことはできなかった。
どうやら僕のせいらしい。名雪と言う子は猫アレルギーだそうだ。
だから、ほかの人と一緒に暮らすことになった。
もちろん、その人はいい人だったと思う。
だけど、あの時、僕を拾ってくれた子ほど優しくはなかった。
そして、僕は拾われてから7年後、病気で亡くなってしまった。
だから、もう大丈夫、もう猫でない猫だから。
僕は一生懸命になって探して名雪に会いに来た。
名雪でない人に、拾われた。
だけど、その人は名雪と一緒に住んでいる女の子と男の子だったので、名雪に会えることができた。
秋子さんは、猫アレルギーの人がいるのに簡単に了承と言っていた。
もしかすると、秋子さんは気付いていたかもしれない。
昔、名雪が拾った猫であることを。だから、猫アレルギーである人がいても僕を買うことができると判断したんだ。
ここにいる人は、きっといい人だ。
奇跡は起きた。