暑い砂漠
太陽の光がとても眩しい。
地面がとても熱い。
そんな場所に、ぜんまい仕掛けの人形が歩いている。
この何もない砂漠の上を一人で歩いていた。


ぜんまい仕掛けの人形は、いろいろな場所を旅していた。
何がいるか分からない森の中
何もない村
綺麗な夕焼けを見ることができる海岸。
時には、人がよく集まる大都会


ぜんまいを誰かに巻いてくれる相手を見つけるために芸をする。
人形でないような動作をすれば、人は喜んでもらえる。
空中で回転したり、速く歩いたり。
「ねえ、お人形さん、お名前は何て言うの?」
「フィーナ・・・」
「可愛い名前だね。 ぜんまい巻くね・・・」
フィーナは生きるためにぜんまいを巻いてもらうため旅を続ける。


フィーナ



「さあ、楽しい人形劇の始まりだ」
僕と同じように人形劇をして稼ごうとしていた。
あの人は、ダメだな。
僕は見る前から、そんなことを思っていた。


客が全くと言っていい程来ない・・・
ホントに僕の予感は当たっていた。
子供でさえ、振り向こうとはしなかった。


「観鈴、人がもっと集まる場所はないか」
あの人は、場所のせいにしていた。
人形劇は場所ではなく腕なんた。


「さあ、楽しい人形劇のはじまりだ」
あの人は、まだあきらめていなかった。
観鈴と言う女の子がこっちに向かってきた。
きっと、僕の人形劇を見に行ったんだ。


観鈴は、ぜんまいで動く人形劇を見ていた。


実際、僕の方が人気があった。
まあ、最初から負けるとか思っていなかったけれどね。
いい気になってやった。


あの人も僕の人形芸を見に来た。
あの人はくやしがって僕に怒ってきた。
ざま〜みろって感じだった。
本当に今日はいい気分だ。


「あんた、名前は」
「フィーナ・・・」
「聞いたことある名前だな・・・」
まずい・・・
名前を知られてしまった。
どうしてだろう。
僕は、人形だからどうしても知られなくちゃいけないのに・・・
どうしてそんな風に思ってしまうんだろう?


いつの間にか僕は旅をしていた。
ぜんまいを回してもらうために芸をしている。
どうして僕だけはぜんまいを巻いてもらわないといけないか分からない。
だけど、これだけは分かっている。
僕は、誰かにぜんまいを巻いてもらはないてと・・・
体が止まってしまう・・・


僕は、観鈴という女の子の家に泊まることにした。
観鈴はとても優しい女の子だった。
でも、何故か売れない人形劇をやっていた人も来ていた・・・
この人は、ロ・・・か・・・


「却下や」
おばさんに却下されてしまった。
でも、なんで人形劇をやっていた人は許されて僕は許されないんだ?
僕のほうがお金もたくさん稼げるのにどうしてなんだろう?
もしかして、人でないから・・・
いや、そうではない。
この人はきっと分かってそうな目で見ていた。
ただ、これ以上置けない。
そう、思っているのだろうか。
でも、ここには置いている人もいる。
もしかすると、あの人はただものではないかも・・・


観鈴は僕のために必死で説得してくれた。
こんな中でも観鈴は僕を助けてくれた。
だけど、晴子は却下っと言い続けている。
「フィーナ・・・、人形劇をやって」
「うん」
こんなおばさんに僕の人形劇が分かるのかな〜
観鈴は何を考えているんだろう・・・
もし、僕の人形劇が分からなかったらいったいどうしたらいいのか・・・
とても、不安だ・・・


僕は、芸をやった。
今までにないぐらいせいいっぱいの力を出して芸をした。
とてもぜんまいで動いていると思えないような芸をした。
あの人どころかおばさんでさえ面白そうに見てくれた。


「なかなかえ〜劇するやないか〜」
「こんなしょぼい劇であんたは叫ぶのか」
「何か言ったか!!」
「いや、別に」
速答で答えていた。
「よ〜し、今日は朝までコースだ〜」
酒の付き合いをするという条件で、泊めてもいいことになった。
最初は、素直に喜んでいたが・・・


まさか、酒の付き合いがこんなにきついとは・・・・
僕にむかって芸をやれ芸をやれっといい続けてきた。
まさか、こんなにヒドイ扱いされるとは・・・


翌日、僕は寝ていた。
とてもじゃないけれど起きれない。
これが毎日続くと思うとぞっとしてしまう。
これが本当の不幸のはじまりなのかな・・・・


「朝まで付き会わされていたからな」
「お母さん、昨日は絶好調だったから」
「俺がこの家に来た時もそうだったな」
ということは、この家では誰かが来たらおばさんは酒をたくさん飲むってことか・・・
早く僕の芸にさめてほしい
また、寝よう。


暑い・・・
昼ごろになってようやく僕は起きることができた。
たくさん寝たからというよりも、暑いから起きたという感じだった。
「さてと、今日も芸をしに行くかな・・・」


「よっと」
おもいっきりまわって見せた。
たくさんの子供たちが僕の芸を見るために来てくれる。
今日も僕の方は大勢のお客さんが、来てくれた。


それに反して、あの人は・・・
「場所か悪い・・・」
すぐに人のせいにしている。


今日も、たくさんの人が来てくれた。
疲れたので家に帰ることにした。
もう、これだけ巻いてくれたんだから今日はいいだろう。


扇風機で涼もうとした。
背が低すぎて風が来ない・・・
なんて意味のない機械なんだ〜


観鈴が学校から帰ってきた。
「夏休みなのに補習か・・・ 大変だな・・・」
補習、補習、補習
考えただけでいやになってしまう・・・。
観鈴が、宿題手伝ってと言って来る。
どうやら、補習の犠牲者は僕だけでないみたいだ。


宿題を終わった時は、12時を軽く過ぎていた。
僕が手伝っていなければはるかに早く終わってしまったかもしれない。
それにしても頭が痛い・・・・




その夜、僕は夢を見た。


客が急に来なくなった。


子供が、近づいても、誰かがいつも止めようとする。


僕は、嫌われた・・・


ただ、ぜんまいを巻いてもらうためだけに芸をしているだけなのに・・・




「もう、芸は終わりですか?」




僕は振り向いた。
観鈴が笑っていた。
目をこすりながら僕は立った。
「頑張るから・・・」


「お礼にぜんまいを巻くね」
ダメ・・・
「にはは」


「ダメ・・・ 近づいたら・・・」
どうしてか分からないけれど声が震えていた。


「どうしたの? フィーナ・・・」
優しそうな声で聞いてくる。


「いや、なんでもない・・・ ただ、誰かがそう言わないといけないように言われた気がして・・・」


「なんだか、私のことを避けている」
「観鈴ちん、ピンチ」
それでも観鈴は笑っていた。
本当に僕と違って強い子だ・・・


「じゃあ、フィーナは・・・」
誰かが僕を叫んでいた。


「ど、どうして・・・」
こんな、僕を心配してもどうにもならないのに・・・





日にちは朝になっていた。
ここはいつも芸をするところ
でも、いつもと違う光景があった。
僕を追い出そうとしている人がいた。
もう、誰も信じられない・・・


観鈴が見ている
ずっと見ていないフリをしていた。
急にどこかへ逃げるように走り出した。
それは・・・
とても耐えられないからだ・・・
とても僕は観鈴の顔を見ていてつらかった。


僕は帰った。
帰るまでの道のりがとても長く感じた。
「ただいま・・」
とても疲れてしまった。
まるで、酒でよってしまったかのように・・・
・・・・僕は玄関の前に倒れた。


次の日も次の日も、僕は誰かにやられた。
この町の人は僕を嫌っている。
もう、この町にはいられないかもしれない・・・


ダメ・・・ ダメ・・・


日が経つに連れてだんだんとフィーナの体が弱ってくる。
体力も気力もなくなってきてしまった。
もう、きっとこの町を出て行くしかないのかもしれない。
もう、町を出て行こう。
そう決心をしたあるとき・・・


「フィーナをいじめたらダメ」
とてもその声が大きく感じた。


赤い夕焼けの下で、一人の少女が叫んでいる。


「お願い、もうやめて、私の友達をいじめないで」


観鈴が僕を助けてくれた。
こんな僕のために助けてくれた。
「この人形が何だか分かっているのか!!」
「わかってんのかあんたは!! こいつのぜんまいを巻くとどうなるってことが!!」
町の人達が攻めてきた。
大声で観鈴に話しかけてきた。
僕のぜんまいを巻くと自分の寿命が縮んでしまう。
きつい口調で観鈴に話しかけている。


「分かっている・・・。命を削ることより、人を大事にしないことの方が悲しいことだってことが」


「こいつは、人でない、ただのゴミ箱に捨てていいボロ人形なんだ」
「この子は、人形じゃない。ちゃんと、私には分かる」
「じゃあ何なんだ!!」
「この子はちゃんとした人間なの」


「あかん、観鈴、こんな呪われた人形と一緒にいたらあかん」
おばさんも出てきた。


「俺の話も聞け、この人形はな、何人もの人を殺してきたんだぞ」
あの人も出てきた。


もう、本当に僕の居場所はなくなってしまった。
もう、どうでもいいよ・・・
もう、観鈴とは顔をあわせられない・・・
もう、これ以上、苦しみたくない
やっぱり、僕は本当に人を幸せにすることなんてできないんだ・・・


「それでも、私はフィーナのことを信じたいの!! それでも信じたいの!!」
え・・・
僕は振り向いた。
「信じるって、何を信じるんや」
「私ね、フィーナといて分かったの。友達の優しさって本当に大事だって事が」


観鈴は、走り出した。
僕はとても辛く感じてここにいられなくなった。
今、会って話がしたい。
観鈴・・・


部屋には観鈴が一人でトランプをしていた。
「にはは」
「フィーナ、辛かったでしょ・・・」
巻いてあげるからね
僕の体に水があたった。
その水はとても冷たかった。
「ダメだよ泣いちゃあ・・・」


その日は、夜になってもお母さんも住人さんも帰ってこなかった。


朝が来ても、ずっと一人ぼっち
とても家の中が冷たく感じた。


「私にとって一番の幸せは、誰にも愛されないことなのかな・・・」
「誰も私を見なければみんな幸せ」
「私がいなければ幸せ」
「フィーナ、最後だけ一緒に来てくれる・・・」
僕は、観鈴が行きたいところに向かった。


その場所は、海


綺麗な海
赤い夕焼け
夕焼けの光が海の色を変えていた。
「とても、綺麗な夕焼けだね」
「にはは」


その中に、お母さんがいた。
住人さんがいた。


「お、お母さん、住人さん・・・・」


「観鈴・・・・・、観鈴・・・、観鈴!!」
「もうたいられへん。あんたの優しさにはたいられへん」


「フィーナのためにぜんまいを巻いてあげたの・・・」
「一生懸命巻いてあげたの・・・・」
とても小さな声で言った。


「観鈴・・・」
「あんたは、世界中の誰よりもいい子や」
「酒を飲むことしか頭のなかったうちよりもちゃんと一番大事なことを知っている」


「お、お母さん」
「私はお母さんにいつも助けられていました」
「助けられたのはうちや。うちは何もしてへん」
「お母さんのことは私が知っている」
観鈴は知っていた。
「お母さんは、住人さんを泊めることを許してくれた」
「お母さんは、フィーナを泊めることを許してくれた」
「私の友達を泊めてくれた優しいお母さん・・・」
「み・・・、観鈴」
二人はようやく温かい心を持つことができた。


「で・・、でも、もうダメみたい」


観鈴の力が抜けていった。


「観鈴・・・」
「おい、しっかりしろ!!」
僕は力が抜けた。


「何でだよ、何で最後まで俺たちは一緒にいてやれなかったんだよ」
「観鈴、お願いや」
「帰ってうちと一緒にいてえな」
「観鈴、観鈴、観鈴ーーーーーーーー」


目が開いた・・・


「お、お母さん」
「私の思いは通じたみたい」
二人の親子は・・・・。